コロナ後の米国の株高・インフレはかくして起きた[日本経済復活へのヒント]

データ分析

まえがきコロナ後の米国の株高・物価高に注目

  前記事では、世界を席巻するコストプッシュ型インフレ(悪しきインフレ)に加え、日本を苦しめる円安をめぐり、為替レート、国債金利、CPI(消費者物価指数)を見てきました。そして、「円は諸外国通貨に対し安値傾向だが、群を抜いて対ドル円安が顕著。」であることを確認しました。

  またCPI(消費者物価指数)のグラフを下に再掲します。

       <再掲>消費者物価指数(CPI)前年同月比(CPIデータ元;https://www.econdb.com/)

  米国は、直近では落ち着きを取り戻しつつあり、ドイツのCPIの高さが目立ちますが、2022春ころまでは米国が世界で最もインフレに悩まされてきました。またCPIの立ち上がり時期も他国より早く、年2月ころから急速に上昇しています。ここからも米国の特殊性が読み取れます。

  そこで今回の記事では米国の株高・インフレがなぜ起きたのか仮説を立て、データを参照しながら検証を試みます。私はこのたび米国で起きたことが今後の日本経済復活へのヒントになると信じています。

コロナ以降の米国の株高・インフレ発生メカニズム[仮説]

  世界各国の多くの物価高が「コストプッシュ型インフレ」によるものと言われている中、米国のインフレは「デマンドプル型インフレ(好景気型)」要因が含まれていると言われています。米国当局による厳しい金融引き締めを経てCPIが落ち着きを取り戻しつつあるところからもこの見方は正しいと考えられます。本記事では米国における「デマンドプル型インフレ」発生メカニズムを見ていきます。

  仮説は下記の通りです。

  (1) 2020年春コロナ感染拡大に対応するロックダウンなどにより家計支出が激減
  (2) 次いで支給された給付金によりさらに家計が膨らむ
  (3) コロナ感染予防のため消費活動が制限される中、株式・投信の購入が進む
     ⇒ コロナバブルと呼ばれる急速な株価上昇
  (4) ワクチン等でコロナへの警戒感が薄らぐとともに抑制されていた消費活動が再開
     ⇒ 急速な物価上昇

仮説の検証

コロナと家計

  2020年春、コロナの脅威が米国を襲い、米政府は対策としてロックダウンを実施。経済活動とともに消費が大きく落込む。家計所得の落ち込みも懸念される中、米政府は手厚い給付金を支給。結果、家計は大きく膨らむ。以上が下のグラフから読み取れます。

  ところで、米国では個人所得・個人消費支出ともに(コロナ以前の)平時ですら右肩上がりですね。今回の記事では深入りしませんが、追って日本の相当統計と比較し、日本の特殊性(デフレ)についても見て行きたいと思っています。

膨らんだ家計の行く先:株高・インフレ発生メカニズム

  2020年、家計は膨らむものの、経済活動が停滞する中、消費が活性化することはありません。従って、CPIも立ち上がることはありませんでした。一方、コロナショックで大きく落ち込んだ株価は急回復を見せます。

  下に以前の記事で使用したグラフを再掲します。コロナショック前まで年率10%程度の成長率だったSP500ですが、コロナショック直後からのコロナバブル期は年率30%の成長率に跳ね上がっています。 

  当時私は「コロナの必然として経済が低迷するはずが何故株高なのか?」と疑問を持ったものです。そこで、どこの誰かは忘れましたが「『株高』なのではなく、米政府の給付金バラマキに起因した『通貨安』なのだ」という意見を目にし、思わず納得したものです。あまりに単純な話ではありますが、さんざん難しく考えた割に正解はいたって単純なものだったりします。案外、日本経済復活(デフレ脱却)への重大なヒントなのかもしれません。

  家計の推移、コロナへの関心度推移、そして株価、CPIの連動を見るために下のチャートを作って見ました。

  

  さらに私の言わんとするところを明確にすべく、下のように「I期」「II期」なる書き込みをしてみました。

  I期、II期はそれぞれ下記のように解釈できます、

  I期:株価高騰期(2020年)
    コロナ感染防止のため消費活動が制限される中、膨らんだ家計は株式・投信市場に流れ、
    コロナバブルとも言われる株価急騰を招く

  II期:物価高騰期(2021年以降)
    ワクチン等により、楽観ムードが広がり、潤沢な家計は消費活動に向かい、
    コロナによるサプライチェーン分断も相まって、急激なインフレを招く
    米当局はインフレ対策として金融引き締め、利上げを実施。
    急激なドル高・円安を招く。

まとめ

  いかがでしょう。割とシンプルに分かり易く米国の株高・インフレが説明できたように思っております。米国当局も当初からこのようなメカニズムで株高・インフレが起きることを想定していたのではないかと考えてしまいます。リーマンショック時のような長引く株安、経済停滞を避けるための荒療治といったところでしょうか。

  一方、長引くデフレに苦しむ日本。見かけ上CPI対前年同月比は2%を超えていますが、あくまでもコストプッシュ型のインフレ、と言いますかスタグフレーションです。収入が長らく伸びていない中での物価高騰は国民生活に危機をもたらします。

  追って記事を書くつもりですが日本経済の問題とは即ち「デフレ」です。いい加減にデフレを脱却しない限り、日本経済は衰退あるいは崩壊に向かってしまいます。今回は米国でのインフレの話ですが、日本が取るべき道筋を端的に示してくれているように思われます。

  ところで、デフレ脱却へのボールは誰が握ってるのでしょう??

データ分析に用いたpythonコード

  今回の記事作成で使用したPythonコードを共有します。

!pip install pandas-datareader
!pip install seaborn

import pandas as pd
import datetime as dt
import numpy as np
import pandas_datareader.data as web
import matplotlib.pyplot as plt
import seaborn as sns
from google.colab import files

start = dt.date(2012,11,23)
end = dt.date(2022,11,23)
code1 = 'PI'
code2 = 'PCE'

df1 = web.DataReader(code1,'fred',start,end)
df2 = web.DataReader(code2,'fred',start,end)

df3 = pd.concat([df1, df2], axis=1)
df3["difference"] = df3["PI"] - df3["PCE"] 

print(df3)

plt.figure(figsize=(12, 6))
sns.lineplot(data=df3)
lg = plt.legend(bbox_to_anchor=(0.2, 1.0), loc='upper right')

plt.savefig('PI_PCE_PI-PCE.png')
files.download('PI_PCE_PI-PCE.png')
!pip install pandas-datareader
!pip install seaborn
!pip install pytrends

import pandas as pd
import datetime as dt
import numpy as np
import pandas_datareader.data as web
import matplotlib.pyplot as plt
import seaborn as sns
from google.colab import files
from pytrends.request import TrendReq

start = dt.date(2012,11,23)
end = dt.date(2022,11,23)
code1 = 'PI'
code2 = 'PCE'
code3 = 'SP500'

df1 = web.DataReader(code1,'fred',start,end)
df2 = web.DataReader(code2,'fred',start,end)
df3 = web.DataReader(code3,'fred',start,end)

df4 = pd.concat([df1, df2, df3], axis=1)
df4["difference"] = df4["PI"] - df4["PCE"] 
df4["difference/Average"]  = df4["difference"] / df4["difference"].mean() + 2
df4["SP500/Average"]  = 3 * df4["SP500"] / df4["SP500"].mean() + 3
del df4['PI'], df4['PCE'], df4['SP500'], df4['difference'] 

start = dt.date(2011,11,1)
end = dt.date(2022,11,1)

df5 = web.DataReader('ticker=CPIUS', 'econdb',start,end)
df5["CPI_YoY(%)"] = df5.pct_change(12) * 100 
df5["CPI_YoY(%)/Average"] = df5["CPI_YoY(%)"] / df5["CPI_YoY(%)"] .mean() + 8

pytrends = TrendReq(hl='ja-JP', tz=-540)
keyword = "covid-19"
kw_list = [keyword]
pytrends.build_payload(kw_list, timeframe='2012-11-01 2022-11-01',geo='US')
df6 = pytrends.interest_over_time().drop('isPartial', axis=1)
df6["Interest-of-Covid19/Average"] = 0.2 * df6/ df6.mean()

df7 = pd.concat([df4, df5["CPI_YoY(%)/Average"],df6["Interest-of-Covid19/Average"]], axis=1)

plt.figure(figsize=(12, 6))
sns.lineplot(data=df7)
lg = plt.legend(bbox_to_anchor=(0.2, 1.0), loc='lower right')

plt.savefig('PI_PCE_PI-PCE.png')
files.download('PI_PCE_PI-PCE.png')
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