フルセット、大接戦の末、日本は惜しくも銅メダルなりませんでした。しかし、この日もトルコ戦に続き、被ブロックの山を築き、課題が明確になった試合でした。
チームパフォーマンス比較分析
まずはチームとしての総力の比較です。最初は得点力です。
守備力の優位性を活かし、アタック打数では日本が上回りましたが、アタック効果率は抑え込まれました。後程触れますが、被ブロックが多すぎです。
次に守備です。
日本がレセプションで上回っています。と言うより、イタリアのレセプションはかなり乱れていました。笠井選手がこのイタリアの弱点をつき、サーブだけで6点を挙げました。また彼女の効果的なサーブに始まる連続ブレイクを誘導していました。彼女のこの試合でのサーブ本数は32本と日本チームの他の選手の概ね2倍を超えています。それだけ多くのブレイクを誘導していたわけです。
逆に言うと、レセプションに弱点を持つイタリアに対し、笠井選手以外のサーバーがつけ込むことをせず、淡白過ぎたとも言えます。
次にサーブとブロックです。
この日も日本のアタック効果率が低かった背景に相手ブロックの存在が大きかったようです。サーブについては日本はもっとやれたはずですが、相手のレセプションの弱点を突いたのは笠井選手一人だけでした。
2010年~2012年の女子代表黄金時代は「身長の低い日本が、身長でハンデを負わないレシーブやサーブで負けていては話にならない」とサーブにも力を入れていましたし、効果的だった記憶があります。何故か日本のバレーボール指導者たちはそのような「覚えておくべきこと」をサクッと忘れるようです。上記を盛んに唱えていた眞鍋監督自身すら、ほとんど口にしなくなった感があります。
選手別のパフォーマンス比較分析
得点力
下は選手別に得点力を分析したチャートです。比較のため、上に日本チーム、下にトルコチームのチャートを並べて掲載します。例によって、バブルの重なりは凡例をクリックして解消できますので、よろしくお願いいたします。
差は歴然としていますね。日本のアタッカー、特に秋本選手は打数が多く、チャートからバブルがはみ出すほどです。ちなみに本ブログ筆者はチャートの軸スケール尺度はできるだけ変えないようにしています。勘違いを招きやすいためです。
言うまでもありませんが、そこまで打数を増やさなければならないのは、アタック効果率が低いからです。特にこの日の被ブロックは16本、つまり多くのアタックを打った割に16本も相手ブロックにつかまり、得点をプレゼントしているわけです。
今大会脚光を浴びた秋本選手は大会のベストスコアラー、ベストアタッカーに輝いたようですが、この試合で14本のアタックエラーを記録しています。おそらくそのほとんどが被ブロックと思われます。
彼女のアタックは単純な強打がほとんどですので、こうなることは容易に想定できます。身長185cmと日本国内では屈指の長身ですが、その長身・高打点に依存したプレーを続けるほどに「世界に通用しない選手への道」を突き進んでしまいます。長身選手の少ない日本バレー界において、身長に恵まれたことがむしろ「落とし穴」にもなり得ます。今回の苦い経験が彼女にとって良い転機になると良いですね。
守備力
守備力について、上が日本チーム、下がイタリアチームの選手別守備力チャートです。
日本の守備は流石です。レセプション含めて素晴らしいのはリベロの西川選手。
対して、イタリアチームはリベロからしてレセプションがボロボロです。
はっきりした課題
トルコ戦の振り返りでも使用したチャートをイタリア戦含めて更新しましたので再掲します。日本チームの試合ごとのアタック効果率の変遷を示したチャートです。チャート中、
◇ 青い折れ線 :アタック効果率
◇ オレンジの折れ線 :被ブロック数(=相手チームのブロック得点)
日本チームの課題は明確、かつ単純ですね。
◇ ブロックされないアタックを打つこと
(軟打・プッシュ・ブロッカー指先狙いを織り交ぜ、強打一辺倒にならないこと)
◇ ブロックされない攻撃体制とすること。
(特定のアタッカーにトスを集中しないこと)
(複数の選手が同時に攻撃参加すること)
恐らくこれはシニア女子代表にも言えることです。
男子代表の試合(VNL2023)を見ていて、石川祐希選手のブロッカーの指先を狙うアタックを相手が察知し、ブロックの手を引く場面を見ました。同じようなシーンがかつての女子バレーでも見られましたが、現在の日本女子代表はそのような「姑息なアタック」がお嫌いなようですっかり影を潜めた感があります。
ブロッカーの指先を狙うアタック、元々は高橋みゆき元選手がパイオニアだったかと思います。木村沙織選手含め、当時の日本女子のエース級はみな得意としていたと思います。強打一辺倒のアタックなら、高いブロックで抑え込めばいいだけですが、指先を狙ってくるアタッカー相手のブロッカーは迷います。男子の試合でも指先狙いのアタックはたびたび目にします。効果的な戦術だからです。
また、石川祐希選手は相手ブロッカーの手に当てて、外に出すプッシュ攻撃も度々披露しています。これも2010年ころの女子代表の得意技でした。何故、今の女子代表がそのような技を使うことなく被ブロックの山を築いているのか全く意味不明です。
女子代表の試合放送で解説者が、誰だったかは忘れましたが、ややトスが乱れアタッカーがプッシュで得点した際、「タイミングが合いませんでしたが、、、運よく得点できました。どんな形であれ、1点は1点なんで。。(苦笑)」のような奥歯にものが挟まったような解説をしたり、アナウンサーが「強打はできませんでしたが(苦笑)、良かったです。」といった口ぶりでコメントするのが、私はとても気になっています。
得点したのだから、ストレートに賞賛すべきだと思います。「難しいトスを見事に得点に繋げました。〇〇選手は非常に器用なので安心して見ていられます。」とか、「強打に偏らず、軟打やプッシュを織り交ぜることで相手ブロッカー、ディガーを翻弄させることができ、非常に頭脳的なプレーだと思います」とか。私は全く正直な気持ちでそう思っています。何といっても、そうすることで実際にブロックを食らうこともディグされることもなく、得点できているわけですから、それが全てです。相手チームより早く25得点をあげ、3セットを先に勝ち取ることで勝利する。それが全てなのです。
かつて日本女子代表が築き上げたバレーボールにおける知的資産を受け継いだのは、後輩の日本女子代表ではなく、ライバルの海外女子チームだったり、日本男子代表だったりします。
期待が高まったなでしこJapanもスウエーデン戦敗戦で評価が一変しました。「再び冬の時代」との声も聞きます。バレーボール日本女子代表には踏みとどまって欲しいです。
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