[バレーボールデータ分析][女子OQT2023] 日本vsプエルトリコ戦振り返りと密かな期待

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  プエルトリコ戦、凄い試合でしたね。第1~第2セットは本当にヒヤヒヤしました。しかし第3セット、下の表のとおり、日本女子代表は全く違うチームに変貌していました。感動的です。

  日本女子代表にとってこの試合大きな転機になるかもしれない、とまで感じました。

  この日の日本女子代表は第1~第2セットと第3セットでは全く違うチームでしたから、第1~第3セットの累計データを分析したところで、正しいメッセージは抽出できないと考えています。従って、データ分析部分は後半で簡単に触れる程度とし、定性的な考察を中心にお話ししたいと思っています。

[定性的考察]「速いトス」呪縛からの解放?

「速いトス」からの転換?

  アルゼンチン戦後のインタビューで眞鍋監督は、下記緑字のようにコメントしています。

眞鍋:古賀は今日、決定率も効果率低かったです。途中から関(菜々巳)のトスが急に速くなりすぎました。やはり緊張しているんでしょうね。そこは古賀の責任ではなく、関のスピードが速すぎたんだと思います。出典リンク

  これを読んで、私は「もしかしたら、『速いトス』へのこだわりから転換があるのでは?」と考えていました。

  私の理解が正しければ、2人のセッターのうち、関選手は速いトスを持ち味にしています。速いトスにこだわる眞鍋監督は、このためセッターとして関選手ばかりを起用してきました。しかし昨日、関選手から松井選手にセッター交代したこと、またそれが見事に成功したことから、より眞鍋監督の「速いトス離れ」が現実味を帯びてきたと思っています。

  日本のバレー界には長らく「速いトス」信仰ともいうべきものが存在してきました。身長で劣る日本チームが勝つためには「速いバレーが必須」との考えのもと「速いトス」を追求してきたのです。しかし、それが成功したことは、ほぼありません。昨年、VNL2022で日本女子代表は開幕8連勝という快挙を果たしました。私が知る限りこれが後にも先にも「速いトス」が効果を発揮した『瞬間』です。『瞬間』という表現をしたのは、8連勝の後、日本女子代表は5連敗を喫したからです。

  しかし、眞鍋監督はその後も速いトスにこだわり続けます。今年のVNL2023準々決勝米国戦敗戦後、眞鍋監督はインタビューで「チームの課題の一つは、『セッターの速いトスの精度』」と話しています。

  この「速いトス」ですが、私自身中学時代に練習したことがありますが、セッターにとっても、アタッカーにとっても、非常に難度の高いものです。選手は、何とかタイミングを合わせて打ち切るだけで精一杯。それ以上のこと(コートの空いてるところを狙うなど)は何もできないと思います。効果よりも、アタッカーの咄嗟の判断や対応、工夫の余地と言ったものを奪う弊害のほうが大きいと思われます。

いち早く「速いトス」からの脱却を果たした男子代表の躍進

  「速いトス」を追求してきたのは女子代表に限った話ではありません。男子代表も「速いトス」を強いられてきました。そして、現時点では解放されたようです。

  下記緑字は「VNL準々決勝へ、男子バレー日本代表はなぜ強くなったのか? 急成長を促した3つの大きな理由」と題された記事(注. 現在この記事は削除されています)からの抜粋です。

日本代表はこれほど強くなったのか。大きな理由は3つある。

 まず1つ目は、2017年にコーチとして就任したフィリップ・ブラン氏が監督となり、日本代表が取り組む戦術がより明確になったことだろう。これまでは海外勢の高さに対して、トスの速さで対抗してきたが、いくらトスが速くなっても相手のブロッカーがそこで待ち構えていたら意味をなさない。むしろ速さを求めるあまりトスが低くなれば打てるコースが限られてしまう。世界の高さを意識しすぎて独自の策に走るのではなく、(以下略)

  つまり男子代表の強化要因の第一が「速いトスからの解放」と言うわけです。

  いきなり強くなった日本男子代表に眞鍋監督ら女子代表スタッフが無関心でいられるわけがありません。VNL2023終了後、男子代表スタッフらとの交流を通し、「速いトス」見直しに心が動いたのではないでしょうか?

今後のセッター起用の可能性

  「速いトス」から解放された井上選手の「水を得た魚」ぶりは見事でしたね。もともと器用に見える井上選手ですが、速いトスに制約を受け、力が発揮できなかった面があると思われます。セッター松井選手も井上選手を活躍させることができていることを嬉しそうにしている姿が印象的でした。時折、感極まったような表情を浮かべていた気もします。仲間の活躍を心から喜びあい、助け合うバレーボールと言うスポーツの美しさ、魅力が再確認出来て嬉しく思います。

  今後の「速いトス」ですが、早速捨ててしまうのも短絡的と思います。現在のアタッカー陣は「速いトス」も打てるスキルを維持しながら、関セッターと松井セッター双方のトスが打ちこなすなら、相手チームを攪乱する戦術の一つとして「セッター交代」があるかもしれません。つまり「速いトス一辺倒」から、「時々速いトス」への切り替えで「速いトス」の本当の威力を発揮する可能性を試してみるという案です。

  またセッターをこれまでの「一人体制」から「二人体制」にすることでセッターとベンチ間のコミュニケーションを改善できる可能性もあるかと思います。かつて、竹下元セッターは選手時代、今は無くなってしまった『テクニカルタイムアウト』時に眞鍋監督からiPadを受け取り、データを頭に叩き込んでいました。テクニカルタイムアウトがなくなり、セッターがデータに触れることが難しくなった現在、「二人体制」になったセッターが「選手交代」と言う形でコートとベンチを往復することができたら、ひとつのソリューションになり得ます。

[定性的考察]選手のメンタルの変化?

  今大会、井上選手の表情が今までになく引き締まってると思いませんか?また昨日のヒロイン松井セッターも今までに見せたことのない真剣な表情でした。かなり集中し、緊張していたものと思われます。いわゆる「ゾーンに入る」状態にあったと思います。恐らく、男子代表の躍進が刺激になっているように思います。

  一方でまだその状態にない選手もいるはず。しかし、アルゼンチン戦・プエルトリコ戦の井上選手、そして昨日の松井選手の姿を見れば自ずと「自分もやらなければ!」という心理に誘導されます。今後の井上選手、松井選手、そしてアルゼンチン戦大活躍の宮部選手らの活躍を期待しながら、他の選手らの奮起にも期待します。それによりメンバー全員が「新しい火の鳥リーダーズ」に変貌し、パリ五輪メダル候補に躍り出ることを密かに(笑)期待しています。

[定量分析]日本vsプエルトリコ:チームパフォーマンス比較分析

  それでは毎回おなじみのデータ分析に入ります。今回はサクッと。

  まずはチームとしての総力の比較です。最初は得点力です。アタック効果率・打数共に日本が上回り、総得点でも上回りました。しかし、この差を生み出したのは3セット目に依るところが大きいはずです。

  例によって、バブルの重なりは凡例をクリックして解消できますので、よろしくお願いいたします。

  次に守備ですが、こちらもレセプション効果率(Reception Efficiency)に差が出ています。

  次にサーブとブロックです。こちらはサーブ効果率で日本が上回った形です。

[定量分析]日本vsプエルトリコ:選手別パフォーマンス比較分析

得点力

  まずは日本チーム各選手の得点力分析です。

  アルゼンチン戦に続き、井上選手のパフォーマンスが光っています。第3セットに限定すればもっと凄いことになっているはずです。

  また、本ブログ筆者が延々と訴え続けてきた古賀キャプテンへの過剰なトス配分も是正されています。セッターが途中で松井選手に変わったせいか?とも思いましたが、関選手のトス配分も改善されていました。恐らくチーム内で意見交換が行われたものと思われます。しかしながら、アタック効果率の高かった林選手にはもっとトスを供給すべきでした。

  試合を見ていて改めて感じたのですが、トス配分はベンチ(監督・コーチ)からセッターに指示すべきですね。セッターはコート内を走り回るので、どのアタッカーがどの程度好調なのかを把握したり、記憶したりするのは難しいですから。

  プエルトリコチーム各選手の得点力チャートも掲載します。11番のへの依存度が高過ぎますね。

守備力

  次に日本チーム各選手の守備力です。アルゼンチン戦の分析をした時から気になっているのですが、守備におけるリベロの福留選手の存在感が今一つ弱い気がします。VNL2023時はリベロとして西村選手が活躍しましたが、守備面ではチーム内で圧倒的存在感がありました。そろそろ西村選手にコートインしてもらうべきかと思います。

  次にプエルトリコチーム各選手の守備力パフォーマンスです。リベロのレセプション効果率がマイナスになってしまっていますね。

  最後の試合の動画を張っておきます。

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